- レンツの法則が表すこと
- 「磁束が貫く面」はどう取ってもよいということ
- 銅パイプに磁石を落とすとゆっくり落ちる理由
- エネルギー保存との関係
レンツの法則は、誘導起電力の向きを決める法則です。
$$\mathcal{E} = -\frac{d\Phi}{dt}$$
このマイナス符号が、レンツの法則そのものです。
誘導電流は、磁束の変化を妨げる向きに流れる。
覚えるだけなら簡単ですが、実際に問題を解くと符号を間違えやすいところでもあります。
意味から理解しておきましょう。
妨げるのは「変化」であって「磁束」ではない
最初に注意したいのがここです。
誘導電流が妨げようとするのは磁束そのものではなく、磁束の変化です。
- 磁束が増えている → それを打ち消す向きの磁場を作る電流
- 磁束が減っている → 減るのを補う向き、つまり元の磁場と同じ向きの磁場を作る電流
N極を近づけると反発し、遠ざけると引きつけられるのはこのためです。
貫く面はどう取ってもよい
ここが意外と誤解されやすいポイントです。
「コイルを貫く磁束」と言うとき、コイルの平面を貫く磁力線の数だと思ってしまいがちです。
しかし正確には、磁束は
$$\Phi = \int_S \boldsymbol{B} \cdot d\boldsymbol{S}$$
と定義され、$S$ はその閉曲線を縁とする任意の曲面でよいのです。
平らな円板でも、ボウルのように膨らんだ曲面でも、袋のように伸びた曲面でも構いません。
なぜかというと、$\nabla \cdot \boldsymbol{B} = 0$ だからです。
磁力線には湧き出しも吸い込みもありません。
そのため、同じ縁を持つ2つの曲面を貫く磁束は必ず等しくなります。
(2つの面を合わせると閉曲面になり、閉曲面を通る磁束の総和はゼロ。これが理由です)
計算しやすい面を選んでよい、というのは実用上とても便利です。
面の取り方の自由度については、ストークスの定理の記事でも扱っています。
銅パイプの実験
レンツの法則を体感できる有名な実験があります。
銅やアルミのパイプに、強い磁石を落とすというものです。
磁石はゆっくりと、まるで粘性のある液体の中を沈むように落ちていきます。
理由はこうです。
- 磁石が動くと、パイプを貫く磁束が変化する
- パイプに渦電流が流れる
- その電流が、磁石の運動を妨げる向きの力を生む
- 速度に比例した制動力がかかる
運動方程式は
$$m\frac{dv}{dt} = mg – kv$$
となり、雨滴が終端速度に達するのと同じ形です。

破線が自由落下、実線がパイプ内の磁石です。
すぐに終端速度 $v = mg/k$ に落ち着きます。
パイプは磁石に引きつけられる材質ではありません。銅もアルミも非磁性体です。
それでも制動がかかるのは、電磁誘導だけが原因だというのが面白いところです。
エネルギーはどこへ行くのか
最後に、なぜ「妨げる向き」でなければならないかを考えます。
もし誘導電流が変化を助ける向きに流れたらどうなるでしょうか。
磁束の増加が電流を生み、その電流がさらに磁束を増やし……と、際限なくエネルギーが増えてしまいます。
永久機関ができてしまうわけです。
つまりレンツの法則は、エネルギー保存則の電磁気版だと言えます。
銅パイプの実験で失われた位置エネルギーは、渦電流によるジュール熱としてパイプを温めています。
まとめ
- 誘導電流は磁束の「変化」を妨げる向きに流れる
- 磁束を計算する面は、縁が同じならどう取ってもよい ($\nabla\cdot\boldsymbol{B}=0$ のため)
- 銅パイプ中の磁石は渦電流の制動で終端速度に達する
- 非磁性体でも制動がかかる
- レンツの法則はエネルギー保存則の現れ
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