磁化とは【キュリーワイスの法則、ランジュバン関数、ブリルアン関数】

磁性体の基本的かつ重要な物理量のうちの一つである、磁化について解説します。

磁化とは、

単位体積あたりの、原子の磁気モーメントの平均

のことを指します。

これを測定すると、例えばどのような条件で常磁性から強磁性に相転移するか、など磁性体の磁気構造がわかるので大変重要な物理量です。

それでは、もっと厳密に磁化について考えていきましょう。

まずは磁化に関する様々な用語を確認し、最終的にキュリーの法則やキュリーワイスの法則、ランジュバンの理論、ブリルアン関数を理解することを本記事の主題とします。

 

 

磁束密度

磁束密度とは文字通り、磁気の束の密度を意味します。

磁束密度ができる原因は荷電粒子の移動、つまり電流であると定義されています。

式で表すならば、

$$F = qv \times B(r)$$

速度\(v\)で移動する荷電粒子に力\(F\)が働く時、上式の\(B(r)\)を磁束密度と定義します

電磁気学でもお馴染み、

$$\boldsymbol{B} = \frac{\mu_0}{4\pi}\int_{V}\frac{di \times (r – r’)}{|r – r’|^3}$$

という関係はビオ-サバールの法則と呼ばれ、電荷粒子から磁束密度が生じる様子が描かれています。

これの微分形は

$$\text{rot} \boldsymbol{B} = \mu_0 i$$

とも表され、ループ電流が磁束密度を作り出すことを表しています。

電磁気学では、このように電流から磁束密度が生じると考える考え方をE-B対応とも呼びます。

一方で、電荷に対応した”磁荷”というものがもともと存在するとして議論するのがE-H対応です。

 

 

磁気モーメント

ループ電流とその面積がわかる時、磁気モーメント$\boldsymbol{\mu}$を定義できます。

磁気モーメントの大きさは、外部磁場$\boldsymbol{H}$との外積、

$$\boldsymbol{H}\times \boldsymbol{\mu} = H \mu \sin \theta$$

で表されます。$\theta$は磁場と磁気モーメントの角度に相当します。

このトルクによって磁気モーメントは磁場の周りで回転運動 (歳差運動) をします。

そして、磁気モーメントの大きさを$\theta$に関して積分してあげることでトルクのエネルギーが求められます。

$$E = \int_{\theta}H\mu \sin \theta d \theta = -H\mu \cos \theta + C$$

 

また、磁気モーメントの最小単位はボーア磁子 $\mu_{B}= \dfrac{e \hbar}{2m_e}=9.27 \times 10^{-24} \text{J/T} (=\text{A} \cdot \text{m}^2)$ です。

これをボルツマン定数 $k_B = 1.38\times 10^{-23} \text{J/T}$ と比較すると、磁場1Tは温度1Kのエネルギーに相当することがわかります。

そう考えると、低温で磁場を印加しながら測定をすることはとても大変なこともわかりますね。

 

 

磁場

磁場$H$も定義しておきます。

磁場と磁束密度の比を透磁率 $\mu$ を用いて、

$$B = \mu_0 H$$

と表します。($\mu_0$は真空の透磁率)

 

 

磁化

初めにも紹介した通り、磁化とは原子あたりの磁気モーメントの平均です。

何の平均かというと、実は分野ごとに流儀があるらしく、例えば物性物理では

$$\text{emu}/(\text{mol}\cdot \text{Oe})$$

という単位が用いられます。Oeはエルステッドで1 T=10000 Oe、/molは試料の1molあたりという意味です。

つまりmol平均ということです。他には単位体積あたりなどがあります。

 

磁気モーメントのところで紹介したトルクエネルギーは表式を変えて、

$$E = -\boldsymbol{M}\cdot \boldsymbol{H}$$

とすれば、これをゼーマンエネルギーと呼びます。

 

 

磁化率とキュリーの法則

キュリーの法則は常磁性で磁化率が温度に反比例するという経験則です。

19世紀末にピエール-キュリーによって発見されました。

$$\chi = \frac{C}{T}$$

これをさらに拡張したものがキュリーワイスの法則と呼ばれ、

$$\chi = \dfrac{C}{T-\theta}$$

というように温度に関して $\theta$ だけ移動されたものを考えます。

この $\theta$ はキュリー温度ど呼ばれ、強磁性や反強磁性が常磁性へ転移する温度を表します。

 

 

ランジュバン関数

上で説明したキュリーの法則は、後にランジュバンによって理論的に導出されます。

ここではその導出について説明します。

ランジュバンは、磁化が多くの原子の磁気モーメントから成ることに着目し、統計力学の手法を用いることに着目しました。

先ほども紹介したゼーマンエネルギー$E = -\mu H \cos \theta$をもとに、1分子あたりの磁気モーメントの分配関数は、

$$Z = \text{Tr}  [e^{(-\beta H)}] = \frac{1}{4 \pi} \int_0 ^{\pi} e^{(\mu H \cos \theta \beta)} 2\pi \sin \theta d\theta  $$

となります$(\beta=\frac{1}{k_B T})$。

これはどう考えているかというと、ボルツマン因子以外の項は、磁気モーメントが下図のように面積 $2\pi \sin \theta d\theta $ の中にあるとして、半径1の球の表面積 $4 \pi$ に対する割合を示しています

ここで注意すべきことは、磁気モーメントが古典的(連続)であり、量子化されていないことです

このあと出てくるランジュバン関数は古典的で、その後に紹介するブリルアン関数は量子化されていることがわかります

分配関数を計算するために $t = \cos \theta$ とおきます。すると $dt = -\sin \theta $ となり、積分範囲は $1\rightarrow -1$ になります。こうして、

\begin{eqnarray} Z &=& \frac{1}{4 \pi} \int_0 ^{\pi} e^{(\mu H \cos \theta \beta)} 2\pi \sin \theta d\theta \\&=& \frac{1}{2} \int_{-1} ^{1} e^{(\mu H t \beta)} dt \\ &=& \frac{\sinh \mu H \beta}{\mu H \beta} \end{eqnarray}

こうして分配関数が導かれました。

これを利用して統計力学的にヘルムホルツの自由エネルギー $F$ や磁化 $M$ を計算することができます。

分子数を $N$ とすると、

\begin{eqnarray}F &=& -N \kb T \text{ln} Z \\&=& -N \kb T \left(\text{ln} (\sinh \mu H \beta) \ – \ \text{ln} H\right)\ -\ N \kb T\text{ln}\left(\frac{1}{\beta \mu}\right) \end{eqnarray}

磁化 $M$ は、

$$M = – \frac{\partial F}{\partial H} = \mu N \underline{\left(\coth \mu H \beta \ – \ \frac{1}{\mu H \beta}\right)}$$

となります。

下線部の $\coth X \ – \ \dfrac{1}{X}$ という関数形をランジュバン関数と言います。

ここで $\coth x = \dfrac{1}{\tanh x} = \dfrac{e^x \ +\  e^{-x}}{e^x \ – \  e^{-x}}$ です。

Xが小さいとしてランジュバン関数をテイラー展開すると、

$$\frac{X}{3} \ – \ \frac{X^3}{45} + \mac{O}(X^5) $$

となります。これより、Xが小さいときつまりゼーマンエネルギーが熱エネルギーに比べて小さいときは、磁化が外部磁場に比例することがわかります。

また、キュリーの法則 $\chi = \frac{C}{T} = \frac{M}{H}$ と比較してあげると、キュリー定数 $C = \frac{\mu ^2 N}{3 \kb T}$ となることもわかります。

 

以上、古典的に統計力学を用いて磁化を導出しました。

ところが、古典的に電子を扱うと、統計力学で熱平衡状態にある磁化がゼロになることが証明されています
(ボーア-ファンリューエンの定理) 。

やはり電子の運動は量子的に考えないと説明できないことがわかります。

これを踏まえ次に電子の運動を量子化したバージョンを考えます。

 

 

 

ブリルアン関数

ここでは角運動量が方向量子化され、量子化方向軸に $m \hbar$ と $\hbar$ ごとのとびとびの値をとると考えます。

仮定として磁気モーメント $\mu = – \mu _B g m$ とします。

するとゼーマンエネルギーは $E = \mub  g m H$ と書けます。

ここで $g$ は $g$ 因子と呼ばれます。また、$m \leq \left| J \right| $ として $J$ は整数もしくは半整数をとるとします。

同様に分配関数を考えると、

\begin{eqnarray}Z &=& \sum _{-J} ^{J} e^{- \beta \mub g  H}\\&=& \frac{e^{\beta \mub g J H}- e^{- \beta \mub g \left(J+1\right) H}}{1- e^{- \beta \mub g H}} \\&=& \frac{\left \{e^{\beta \mub g J H}- e^{- \beta \mub g \left(J+1\right) H}\right \} \times e^\frac{\beta \mub g J H}{2}}{\left \{1- e^{- \beta \mub g H} \right \}\times e^\frac{\beta \mub g J H}{2}} \\&=& \frac{\sinh \frac{\beta \mub g \left(2J + 1 \right) H}{2}}{\sinh \frac{\beta \mub g H}{2}} \end{eqnarray}

途中式の2行目では初項 $e^{\beta \mub g J H}$ 、公比 $e^{-\beta \mub g  H}$ の等比数列の和の公式を利用しています。

続けて磁化 $M$ を計算すると、

\begin{eqnarray} M &=& N \pdif{}{H}\left(\kb T \rm{ln} Z \right) \\&=& \mub g J N \underline{\left(\frac{2J + 1}{2J} \coth  \left(\frac{2J+1}{2J} \beta \mub g J H \right) – \frac{1}{2J} \coth  \left(\frac{1}{2J} \beta \mub g J H \right) \right)} \end{eqnarray}

となります。

ここで、下線部をブリルアン関数と呼びます。

この関数をプロットすると、

 

というふうになります。

そして式から、$J \rightarrow \infty$ とすると、ランジュバン関数に一致することがわかります。

これはイメージで考えても、$J$ が大きければ量子準位が多くなって連続的になりそうです。

それはつまり古典的な状態なので、古典論で構成されたランジュバンの理論にたどり着くのは妥当で、素晴らしいことだと思えます。

 

式を眺めるのもいよいよ最後です。

先と同様にXが小さいとき、つまり熱エネルギーがゼーマンエネルギーよりも大きいときを考えます。

ブリルアン関数をテイラー展開すると、 $\dfrac{J +1}{3J}X + \cdots$ のようになります。

このとき磁化は、

$$M = g \mub J N \frac{J + 1}{3J} \frac{g \mub JH}{\kb T} = \frac{g^2 \mub ^2 J(J +1)}{3\kb T}NH$$

となります。キュリーの法則と比較すると、キュリー定数は以下のようになります。

$$C = \frac{g^2 \mub ^2 J(J +1)}{3\kb}N = \frac{p_{\rm{eff}} ^2 \mub ^2}{3 \kb}N$$

ここで $p_{\rm{eff}}=g\sqrt{J(J+1)}$ を有効ボーア磁子と呼んだりします。

こうして無事、ブリルアンの理論からもキュリー定数を求めることができました。

 

 

まとめ

磁化の起源から始まり、その現象を説明する理論の導出を紹介しました。

当たり前に感じるかもしれませんが、改めて論理立てて計算したものが実験結果と一致することはすごいことですよね。

 

 

参考文献